ビデオゲームなどのコンピュータゲームには、さまざまな視覚的要素、インターフェイス、バーチャル環境、デジタルオブジェクトが含まれており、そこにはクリエイターがコピー行為から保護することを求めている、ユニークであり創造性あふれるデザインも存在しているでしょう。これらの構成要素の美的な品質や配置関係は、特許によって保護することはできませんが、その多くは意匠権など、他の知的財産権によって保護することが可能です。
英国では1949年登録意匠法(Registered Designs Act:RDA)に基づく法律規定によって、ゲーム内の視覚的・空間的・画像的要素の多くを保護するための強力な基盤が既に整備されています。英国においてRDAに基づく「製品(products)」の定義は、(EUのように)非物質的オブジェクト又はデジタルオブジェクトまで明確な保護対象とするよう拡張されているわけではありませんが、英国法は既に「グラフィックシンボル」及び「印書用タイプフェイス」を,同国における製品の定義の範囲内に含まれるものとして認めています。アイコン、ツールオーバーレイ(画像の重ね合わせ機能)、UIインジケータ(現在状態の表示機能)、ポインタ、レティクル(半導体製造用の原版)、ジェスチャーアイコン(手の形や指の動きを示すアイコン)、グラフィカルユーザインターフェイス(GUI)など、ゲーム資産の多くは「グラフィックシンボル」のカテゴリに含まれるものとみなされており、したがって英国において意匠登録が可能なグラフィック作品となります。
しかし最近まで、EU法制度の枠内では、ゲームデザインの視覚的構成要素の登録及び保護が困難でした。たとえば意匠出願において、特定の構成要素を視覚的に表現するために認められる図面の種類や数などが制限されていたことから、クリエイターにとっては、自身のゲームデザインの中でEU知的財産庁(EUIPO)に出願して保護を受けることができる視覚的要素は、きわめて限定的なものになっていました。
このたびEU意匠規則(理事会規則(EC)No. 6/2002)が2025年5月1日付で改正され、これによって現在では、ゲーム環境内のさまざまな資産について利用可能な保護手段が強化されています。
具体的には意匠規則の改正によって「製品」の定義が時代に適応したものとなり、現在ではグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)、バーチャル製品、ゲーム環境内に存在するアイテムのバーチャル配置など、非物質的オブジェクトやデジタルオブジェクトも含まれています。「製品」の定義に基づき非物質的オブジェクト及びデジタルオブジェクトが明確に含まれたことから、出願人が意匠法に基づき自身のゲーム環境の構成要素を保護することは、きわめて容易になりました。
また2026年7月1日に施行されたEU意匠施行規則(No. 2026/138)では、EU意匠出願において意匠を表現するために認められる静止図又は静止写真について、7図面までとしていた従来の厳格な制限を撤廃しました。このような制限は,出願人が動的意匠やアニメーション形式の意匠を具体的に表現し,これを保護する能力を著しく制約していました。EU知的財産庁は現在、10図面までの静止図による表現を認めていることから、出願人は静止図又は静止写真を使用して、更に自由かつ柔軟な態様で、自身の意匠を正確に表現することが可能になっています。
更にEU知的財産庁は、意匠の表現方法について従来と異なるファイル形式も受理するようになりました。現在では動画ファイルや、CADファイルなどコンピュータ生成画像を使用したEU意匠出願も可能です。このように柔軟性が向上したことから、アニメーション形式や動的内容を含む意匠についても、有効性及び正確性が高められた態様で表現し、出願することができます。従来においても動き・遷移を表現することは、技術的に可能であったとはいえ、きわめて困難でした。しかし新たな施行規則により、ゲーム本来のインタラクティブな性質に対応した動的な表現方法が認められることになりました。
ゲーム内で保護が更に容易になったのは、どの部分なのか
上述したように、近年のEU及び英国意匠制度は「非物質的」意匠及び「デジタル」意匠の保護を認めており、クリエイターは自身のゲーム環境内のさまざまな構成要素について保護を受けることができます。たとえば次についての保護が可能です。
A. グラフィカルユーザインターフェイス(GUIs)やヘッドアップディスプレイ(HUDs)
ゲーム内で視認可能なGUI、メニュー、アイコン、コントロールパネル、カーソル、空間インターフェイス(画面を介さない空中表示によるインターフェイス)などは、登録意匠として保護可能です。
B. バーチャル資産とバーチャルオブジェクト
現在の意匠権は、バーチャル商品、アバター、3Dモデル、インワールドアイテム(ゲーム内の装備品などのアイテム)、デジタルファッション、デジタルスキン(デジタル形式の皮膚表現)なども明確に保護対象としています。
C. 空間環境と配置
ゲームにはバーチャル環境の部屋、建築レイアウト、トレーニング空間、さまざまな産業環境のシミュレーションなどが含まれていることもあります。
- 現在のEU規則に基づく「製品」の定義には、内部環境・外部環境を構成する各種アイテムの空間配置が含まれており、これはバーチャル環境も明確な保護対象とされています。
- メタバースに適合させたバーチャル製品の配置も同様に、明確な保護対象とされています。
D. アニメーション的要素や動的要素
ゲーム内で用いられるアニメーション(ローディングシーケンス、画面遷移、ジェスチャーエフェクト、触覚フィードバックを表現する視覚効果など)は、意匠として保護を受けることが可能です。
- EUの規則改正に基づき、保護可能な意匠の定義は「動き・遷移・アニメーション」までカバーしています。
これらの構成要素について意匠権を登録すべき理由
登録EU意匠権を取得することは比較的迅速かつ安価であり、非登録EU意匠権と比較して、登録EU意匠権は数多くの利点を有しています。登録意匠権は意匠の外観に対する真の排他的権利を付与するものであり、この権利に基づき、(同一のアイデアやデザインを独立して創造した者を含む)すべての他人に対して、保護対象である意匠の使用・商業利用を禁止することができます。
これに対して非登録意匠権の場合、先行権利の侵害が成立するためには、コピー行為の証明が要求されます。したがって、同一の全体的印象を与える後発意匠が、先行する非登録意匠から独立して創作された場合には、その非登録意匠権の侵害が認められないおそれがあります。すなわち意匠を登録さえしておけば、第三者が当該デザインを模倣したことを証明する必要はありません。登録意匠権の侵害が問題となる場面では、第三者が偶然又は独自に同じデザインを創作した場合であっても、侵害の責任を免れる理由にはならないのです。
したがって、登録による保護は、意図的に「類似した見た目」のゲーム体験やバーチャル資産を作り出す第三者だけでなく、独自に(場合によっては意図せずに)創作した結果として、既存のデザインと同一の全体的印象を生じさせるデザインを作成した第三者に対しても、開発者やクリエイターが権利を行使するための有効な根拠となります。
また重要な点として、Steam(ゲーム配信プラットフォーム)などにおいて権利侵害が疑われるゲームタイトルの削除を要請するときに、クリエイターは「登録」意匠権のみを根拠とすることができる点にも注意すべきです。「非登録」意匠権は削除を要請するための有効な根拠とみなされません。
更にクリエイターにとっては、ゲーム内の視覚的要素から著作権保護が引き出される潜在性はあるかもしれませんが、それよりも登録意匠権を取得した方が明らかに有利です。現在ではゲーム内の美的要素や視覚的要素の大部分が登録意匠権によって保護可能であることが明らかにされていますが、その一方で、著作権法で何が保護されるのか、何が保護されないのかという問題に関しては、登録意匠権ほど明確といえず、更に英国とEUとでは法制度も異なっています。
EUでは最近の判例法において、著作権保護が可能な対象の範囲をきわめて広く解釈しています(たとえばMio / konektra,C 580/23及びC 795/23の各判決を参照)。これらの判決では、(たとえばゲーム環境内に含まれている構成要素などの)応用美術作品がEU著作権法に基づき保護可能とみなされるための唯一の要件が、「独創性(originality)」であることが確認されています。すなわち、応用美術作品が著作者自身の知的創造の成果であり、著作者の自由かつ創造的な選択を反映させたものである限り、その作品は原則として保護されます。
これに対して英国において著作権保護が可能な範囲は、はるかに狭いものになっています。英国法によると、1988年著作権・意匠・特許法(Copyright Designs and Patents Act:CDPA)に掲載されている限定的リストにおいて特定された対象だけが保護可能とみなされています。このリストには、美術・文学・演劇・音楽の各分野における作品、更には録音作品及び映画作品が含まれています。
ゲーム環境内の構成要素の一部に関する限り、(たとえばバーチャル資産やバーチャルオブジェクトのデザイン描画又は静止画像などに関しては、CDPA第4条(1)に基づく)美術作品として、又は(たとえばアニメーションシーケンスなどに関しては、CDPA第5B条に基づく)映画作品として保護可能な対象とみなされるかもしれませんが、その他の構成要素、たとえばGUIなどは、現在の英国著作権法に基づき保護可能な対象とみなされないものと考えられます。
結論
2025年EU意匠規則、更には2026年EU意匠施行規則の改正によって、現在ではゲーム内の視覚的要素についてもEU登録意匠として保護することが、従来よりも容易になっています。これらの意匠権は(非登録意匠権や著作権などの)代替的な権利と比較して、法的確実性の高い保護を提供すると共に、原則としてゲーム環境内における新規な美的・視覚的要素すべてを保護するために活用することができます。
クリエイターは第三者のコピー行為に対抗するために、自身のゲームデザインの中で、いずれの視覚的要素について排他的権利を取得すべきなのか検討し、それを保護するための最善策について法律アドバイスを受けることが望ましいでしょう。
当所の意匠チームは、皆さまの意匠権の保護・市販化・権利行使を支援しています。その詳細につきましては当所の「Designs」ページをご覧ください。
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