- EU規制が持続可能エネルギーのイノベーションを促進し、グリーンAI特許が急増
- 全体的なAI特許出願は減速している一方で、グリーンAI特許公報件数は2023年に35%増加
- 欧州企業のグリーンAI特許出願が優勢、米国企業の出願を約50%上回る
特許法律事務所のMarks & Clerkによると、AIの持つ変革能力が、気候変動への適応力を高めるとともに、排出量削減を支援するという認識は、エネルギー分野における新たなイノベーションを促進する可能性を秘めています。
最新のAI報告書の調査結果によると、全体的にAI特許出願が減速する中、グリーンテクノロジーに関連するAIのイノベーションが急速に躍進しており、2023年には特許公報数が35%増加しました。欧州特許庁(EPO)は、この傾向を支える重要な制度的支援を示しており、グリーンAI特許付与率が今までになく高くなっています。イノベーターたちは、エネルギー転換を加速させる技術への取り組みを一層強化し、再生可能エネルギーグリッドの最適化から排出量削減に至るまで、AIはネットゼロへ移行計画を支える重要な推進力であることを示しています。
AI特許の主導権に関しては、全体的なAI特許出願数において米国が引き続き欧州特許庁(EPO)でトップを占めていますが、一方でグリーンAI分野では欧州企業が優勢で、米国企業を50%上回る特許出願を行っています。米国企業が主に気候変動への適応や回復力に関連する技術に注力しているのに対し、欧州ではエネルギー効率に重点を置き、厳しい規制や政策と連動する形で省エネ分野のリードを保っています。
グリーンAI特許は、現在AI特許全体のわずか4%に過ぎませんが、昨年の急成長は、世界的なエネルギー転換期におけるその重要性を物語っています。この動向は、AIと持続可能性が交わる領域がエネルギーの新時代を築くチャンスを秘めていることを、投資家や政策立案者に強く示しています。すでにエネルギーの生産や消費のあり方を大きく変える画期的な進展が始まっています。
本報告書は、従来の競合他社からのイノベーション保護という役割に加え、新興技術の迅速な普及を促進する業界標準の確立にも特許が活用され、エネルギー分野における特許が二つの役割を果たしている現状に注目しています。
Marks & Clerkの特許弁理士であるトマス・カルガーは、この傾向について以下のようにコメントしています:
「IPプールやライセンスイニシアチブは、新技術の商業化を加速し、グリーンAIソリューションの迅速な普及を促す可能性を秘めています。これらの戦略は、グリーンAIのイノベーションへの持続的な資本投資を引き出す効果も期待されています。今年の報告書が示すように、AIは単なる技術革新にとどまらず、エネルギー分野でよりクリーンで持続可能な未来を実現する推進力となっています。IPプールが通信業界において迅速な技術展開を可能にした過去の成功例を考えると、エネルギー業界も同様の進展を目指すことができると思います。」
しかし、地熱、風力、水力といったエネルギー転換の主要分野におけるグリーンAIのイノベーションは、特許公開活動が比較的低調であることが明らかになっています。この背景には、高額なインフラコスト、AI技術の実装に伴う物理的な課題、さらに厳しい規制環境といった複数の要因が影響していると考えられます。一方で、特許公報件数が最も多かった分野は、燃料電池、バイオ燃料、太陽光発電でした。
エネルギー分野におけるネットゼロ移行計画を加速するためのイノベーション導入への圧力に加え、新たな規制もグリーンAI特許出願の増加において重要な役割を果たすと考えられます。EU AI法(EU AI Act)には、持続可能性や気候目標に貢献するAI技術の開発・展開を奨励する条項が含まれています。グリーンAI特許出願の増加とEU AI法がもたらす規制環境の関連性は、持続可能性と技術革新に対するEUの強いコミットメントを示しています。
Marks & Clerk AI分野専門の特許弁理士であるマイク・ウィリアムスは、変化する規制環境がグリーンAIのイノベーションにどのような影響を与えるかを以下のように考察しています:
「AI規制は主要市場で急速に進展しています。企業がこれらの規制の具体的な影響を見極める一方で、グリーンイノベーションにおける知的財産保護の重要性はすでに明確となっています。特に、AIを活用したグリーンイノベーションの特許出願が大幅に増加している点は、非常に心強い動きであり、企業が過去20年間のAIの進化を活用し、地球規模の環境課題に対する解決策の開発に注力していることを示しています。
この分野はまだ発展途上で初期段階にありますが、問題の規模を考えると、これらのイノベーションがもたらす社会的・経済的な利益は極めて大きいと言えます。また、米国や英国の特許庁がグリーンイノベーションに対して好意的な姿勢を示していることも、この分野のさらなる成長を後押しすると考えます。」
Marks & Clerkの第4回年次AI報告書では、欧州特許庁(EPO)のデータを活用して、AI特許出願における世界的な傾向を特定し、同事務所の世界トップクラスのAI専門家チームによる分析を提供しています。